PTSDとテトリス -1-
2009年、英オックスフォード大学の研究チームは、PTSDで起こるフラッシュバックの症状をパズルゲーム「テトリス」をプレイすることで抑制できるという研究結果を発表しました。
テトリスという超メジャーゲームでPTSDの症状が軽減できるとは意外ですが、この研究結果では、ほかのゲームの場合、フラッシュバックの症状をむしろ悪化させる、ということも明らかになりました。
つまり、テトリスこそが、PTSD症状にもっとも効果的なのです。
研究チームは、手術の流血シーンや交通事故のようなフラッシュバックを起こしやすい要素を含んだ21分間のフィルムを、過去に精神疾患の病歴のない大人60人の被験者に見せ、統計を取りました。
フィルム視聴のあと、グループ分けをして10分間のタスクを与えました。
グループは「テトリスをやるグループ」「パブ・クイズをやるグループ」「何もしないグループ」の3つです。
その結果、テトリスのグループがほかのグループに比べると、フラッシュバックのイメージが最も少なくなっていることが明らかになりました。
更に実験後1週間、被験者全員にフラッシュバックに関する事柄を日記にまとめるように指示を出しておきましたが、そこでもテトリスのグループが最もフラッシュバック症状が減っていることがわかりました。
この結果は、世界中の人たちを驚かせたに違いありません。
PTSDとテトリス -2-
PTSD症状に対してテトリスをプレイすることが良いとされる研究結果は、更なる追跡調査でも実証されました。
第二の実験は、同じようにフィルムを見たあとでタスクを課せられる内容で行われましたが、二回目ではフィルムとタスクの間を4時間空けました。
そしてその結果、やはりテトリスをやったグループでフラッシュバックが最も軽減されていました。
それでは何故「テトリス」なのでしょうか?
グループ分けではそのほかに、「パブ・クイズ」というクイズ形式のゲームをしたグループもありましたが、そちらのグループではフラッシュバック症状は悪化していました。
これは、ゲームの種類の本質的な違いによるものだと推測されています。
テトリスは「視対象」(視覚が対象)のゲームで、視対象の物事に没頭することで、トラウマ経験を脳裏に焼き付けるプロセスを妨げることが可能になると推測されています。
一方、クイズは言葉を使い、論理的に行うゲームです。
つまり、テトリスとクイズでは、脳の使い方が根本的に異なるのです。
このことから、テトリスを初めとした視対象のゲームが、PTSDの新しい治療法を生み出すヒントになるのではないかと専門家は見ています。
但し、テトリスのようなゲームそのものに依存性があるので、「ゲーム依存」という点をどう克服するのかが、これから先の課題になるのではないかと思われます。