チリ鉱山事故 -1-

2010年に起きたチリの鉱山事故は、記憶に新しい人も多いのではないかと思います。

33人の労働者が地下700mの地点で生き埋めになり、そのおよそ2カ月後に全員が救出されました。

生き埋めになった33人のうち、深刻な健康状態の悪化が見られた人は奇跡的に一人もいなく、全員が救助後病院に搬送されて僅か2、3日で退院しました。

彼らは地下生活の中で、役割分担をして一致団結し、僅かに貯蔵された食料もみんなで分け合って飢えをしのいでいました。

極限の精神状態で、大きな混乱が起きなかっただけでもかなり奇跡的なことです。

しかも彼らは、トイレやゴミの場所を設けて自分たちのスペースでは衛生状態を保ち、規則正しい生活を送っていたといいます。

地上で彼らの生存が確認されてからは、世界各国から支援者や支援物資が彼らの元に集まってきました。

その中で、心理学のプロが彼らに適切なアドバイスを送り、蛍光灯で仮の昼夜を作ることで生活のリズムを保つことや、常に何かに没頭するように指示したことなどが、彼らの精神を崩壊させなかった大きな原因になったのではないかと思います。

しかし、彼らは救助された後、簡単に元の生活に戻ることはありませんでした。

33人のうち32人がPTSDを発症し、その後の長い人生が困難になったのです。

60日以上も狭い空間に閉じ込められた経験は、結局は彼らに大きな心の傷を残すことになりました。

チリ鉱山事故 -2-

チリの鉱山事故で生還した33人には、地下生活の途中から心理学者などのアドバイスが届けられるようになり、彼らの指導のもとで、33人は精神状態を良好に保つことができました。

それでも救出後、33人中32人がPTSDになったのは「正常な反応である」というのが専門家の見方です。

地下生活で精神が崩壊しなかっただけ、PTSD克服への道程が多少楽になったかもしれませんが、トラウマを取り除くことは元から不可能でした。

地上から断絶された世界で暫く生きているうちに、彼らは一番最初に死んだ人の肉を食べる、イコール「人肉食」のことも現実的に考えたといいます。

またそのことを「恥ずかしい」とも「恐ろしいこと」とも思っていなかったそうです。

集団自殺を考えたともいいますし、最終的に全員地上に救助されても、33人のうち半数がトラウマで炭鉱をやめ、失業状態になりました。

また、炭鉱に戻りたくても、入口でたじろぎ、2分経たないうちに逃げ出した人もいたといいます。

「私の幸せは、あの鉱山に閉じ込められたままだ」といって泣く人もいました。

中にはPTSD症状が比較的軽く、その後転職して成功した人もいますが、症状が逆に悪化している人もいます。

33人33様の心の変遷を見ていると「誰もがPTSDになる可能性を持っている」ということを強く実感させられます。

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